2015年10月31日

妖精チャックとお化けカボチャ 6

どれぐらい驚かしたり驚かされたりしたでしょう。
そこではどんなに驚かされても腹が立つことはないのです。
とても楽しいのです。こんな遊びはファンタピアにはありません。

「トリック・オア・トリート!お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ!」

小さなガイコツのコドモがチャックに向かって声をかけます。チャックがポケットからキャンディを取り出してガイコツのコドモにあげると、そのコはニッコリと笑ってありがとう!というのです。
ねじれた木も、そこに巣を張るしましまの蜘蛛も怖くありません。
ぐつぐつと魔女が煮込む鍋の中身は甘くてあったかいパンプキンスープな事も知りました。
チャックはすっかりこの紫の夜が好きになってしまいました。
気が付けば、あれほど心を占めていた退屈はどこかへ行ってしましました。

「おーい」

呼ばれて振り返ると、カボチャ頭の中に蝋燭を灯したジャックがやってきます。オレンジ色に頭を輝かせながら、ジャックが尋ねます。「楽しんだかい?チャック」
「うん!とっても!」
「そいつは良かった!もうすぐ夜が明けるからな」
「パーティは終わっちゃうのかい?」
「残念ながら。さあ、帰り道を案内しよう」
「ねえ、ジャック。ボク、帰りたくないんだ。もっともっとここで遊んでいたいんだ」
「ここで?」ジャックは驚いたように聞き返します「帰りたくないだって?」
「うん。だってここはとても楽しくて、退屈なんてないんだもの」

硬いカボチャに刻まれた三角の目が、少し歪んで、ジャックは少し困ったように見えました。

「でも、チャック。それは出来ないんだ」
「どうして?」
「ここは川のこっち側で、お前が暮らしてるのは川の向こう側なんだ」
「向こう側?」

チャックにはジャックの言っていることが分かりません。

「今日はたまたまだったんだ。一年に一度の特別な日で、たまたま川のこちらとそちらがつながって、お前がそう願っていたから今日があっただけなんだよ、チャック」

やっぱり、チャックにはジャックの言っていることが分かりません。

「チャック、いつでもここに来てくれていいんだ。俺様はいつだって歓迎する。いつかまたお前がここに来るときは、一緒に夜通しパーティをしよう。驚かしたり驚かされたりしよう。お前が本当にそう願ってここに来るなら。でも今日はダメだ。今はダメだ」
「どうしてもダメなのかい?せっかく友達になれたのに」
「友達なんかじゃない」
「え?」
「俺はお前だよ、チャック」
「どういうこと?」
「川の向こう側のランタン草のチャック。川のこちら側のジャック・オ・ランタン。ここにはお前はいるけどお前の友達はいないんだ。ああ、もうすぐ夜が明ける。お化けは消える時間だ」

チャックはようやくジャックの言おうとしていることがわかるような気がしました。
何となく、ぼんやりと。
「またね」とジャックが言いました。
「またね」とチャックは答えました。
そしてジャックはそっとチャックの紙袋を脱がせました。




目を開けると、そこはファンタピアでした。
チャックは海色草の草原の真ん中に立っていました。
傾いた太陽の光が、足元に広がる海色草を、日暮れ前の海色に染めていました。
足元に広がる海色草の草原は、明るいオレンジ色から、桃色に、茜色に、深い緑色に、遠くに行くほどに暗い群青色に色を変えて輝いていましたが、そこにあの紫色だけは見つかりませんでした。
まるですべてが夢だったかのように、それはいつも通りのファンタピアでした。

チャックはポケットの中に何か入っていることに気が付いて、そっと手を入れました。
そこにはジャックからもらったキャンディがいくつも入っていました。
その一つを口に入れると、甘くて酸っぱくて少しほろ苦い味い味がしました。
とても美味しいキャンディでした。


友達のマーチに会いに行こう。チャックはそう思いました。
そしてこのキャンディをあげよう。驚かしたり驚かされたりする素敵なお祭りの事を教えてあげよう。ジャックみたいに上手くは出来ないかもしれないけど、友達みんな誘ってやってみよう。いつかジャックに話せるように。チャックはそう思いました。
夜になるまで、まだ少し時間があるんだから。

またね、ジャック。
チャックは川の向こう、そして自分の中にそうつぶやいて、走り出しました。




おわり