2014年08月27日

妖精チャックと星の舟H

どれくらいの時間、そこでチャックは星を見つめていたでしょう。
夜の底が少しずつ白くなってきました。
朝が近づいて来たのです。

星たちは、ゆっくりゆっくりと浮かんでいきます。成長するに合わせて、大地から少しずつ離れ、星空は広がっていきます。
遠ざかって行った星の気配も、星と星の間、見えない夜空の向こうに息づくかすかな光の気配も、今は確かに感じることが出来ました。
――ああ、本当だ。遠く離れていても、繋がっているんだ。

チャックはそう思いました。
そしてもう一度、キラの言った言葉を思い出してつぶやきました。「だからあの夜空は、ちっとも寂しくなんかないんだ。本当だ。今はそう思うよ」

キラは優しく微笑みます。
「朝が来るよ、チャック。ボクはもう行かなくちゃいけないし、キミは帰らなきゃいけない」
星の舟は二人が登ってきたフィボナッチ草のもとへ戻り始めました。

ふわんふわ、ゆらんゆら、さらさら・さららん。
ふわんふわ、ゆらんゆら、さらさら・さららん。

舟に揺られながら、二人は黙ってその音を聞いていました。

ふわんふわ、ゆらんゆら、さらさら・さららん。
ふわんふわ、ゆらんゆら、さらさら・さららん。

フィボナッチ草のてっぺんに辿りつくと、チャックは元気よく星の舟からテーブルのようになった葉っぱの上に飛び降りました。

「じゃあね、チャック」
「またね、キラ」

二人はそういって手を振りました。

夜の底は白く白くなっていきます。

フィボナッチ草のてっぺんより下に輝く星は、その白に追いやられるように薄れて消えていき、やがてキラと星の舟の姿も薄れて消えていきました。
キラの姿が消えて見えなくなるまで、二人は手を振りつづけました。

今のチャックには分ります。

それは今自分が立つこの世界が、昼の世界になったということで、キラが消えてしまったわけではないのだということが。
星の世界のキラから見れば、きっとチャックの姿こそが影に飲まれて消えていったように見えたことでしょう。
でも、そこにキラがいることがわかります。
夜空に輝く星座のように、友達と繋がっていることがわかります。

チャックは白くなった世界の地平を眺めます。
その向こうには海があり、その海面が輝きをましています。そこからもうすぐ、生まれたての太陽が顔を出すでしょう。夜明け鳥たちが大きく弧を描いているのが影になって見えます。

「よーし!」

チャックは、フィボナッチ草の葉っぱの回廊に腰を下ろすと、滑り台のように滑り始めました。
ぐるぐると回りながら、天空から大地へと滑っていきます。

友達のマーチにも、この素敵なお話しを教えてやろう。
吹きガラスみたいに輝く星がどんなに綺麗か、夜空を航る星の舟がどんな音を奏でるか教えてやろう。
そしてまた、一緒に星の舟に乗って星座を探しに行こう。

そう思いながらチャックは草原の世界へと帰っていきました。

まっさらな一日の始まりです。

(終わり)
posted by 中神謙一 at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 妖精チャックと星の舟
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