2014年12月29日

妖精チャックとクリスマスプディング その10

 チャックがそう声をかけたその時です。

 「待たせたね!」

 扉がバタンと開くと、ひゅうっと白いもやが流れ込んで、それはみるみる洞窟の魔女の姿になりました。その手にはが銀のお盆が乗っています。けれどお盆の上は赤いビロードのケープがかけられています。

「おばあさん!」チャックとマーチが魔女に駆け寄ります。
「待たせたね、あんたたち!」と魔女はもう一度そう言いました。「間に合ったかい?」
「うん、ちょうど今から始めようとしてたところだよ。」
「ねぇ、それがクリスマスプディングなの?」

 一同の視線が、魔女の掲げる銀盆に注がれます。

「ああ、そうさ。ぎりぎりまで熟成させてやりたくてね。このまま持ってきたんだ。」
「まあ!まあ!まあ!これは時だましのケープですね?」 魔女の赤いケープを見て、真珠の女王が言います。「なんて珍しい!」
「時だましのケープ?そりゃなんだい?」眠り鼠が目をこすりながら覗きこみます。
「時だましのケープで包んだものは、時間の流れから切り離されて、いつまでもそのままだったり、何倍も早く時間が流れたりするのよ。とても難しい魔法なのよ」
 真珠の女王の説明に、一同、へえ!と驚きの表情です。
「おばあさん、早くクリスマスプディングを!」
 チャックはもう、我慢できません。
 魔女はうむ、とうなずくと、指をパチンと鳴らしました。
 するとケープはしゅるしゅるとほどけて消えていき、おいしそうなクリスマスプディングが姿を現しました。甘い匂いが辺りに立ち込め、一斉に歓声が上がりました。
 深い茶色のプディングの表面には、星の粉砂糖がキラキラと輝いて、まるで樹氷が朝日を反射するようです。
「さあ、切り分けよう!」
 チャックがそう言いながらナイフを取り出すと、魔女がしかめっつらでこう言いました。
「違う違う!まだだよ!」
「ええ?」
「まったく、何にもわかっちゃいないんだね、あんたたちは!」魔女はぷんぷん怒りながら「クリスマスプディングを食べる時は、こうするのさ!」
 魔女は羽織っていたマントから、小さなソースパンを取り出すと、そこにブランデーをなみなみと注ぎ、爪で火花をはじくくと、そのブランデーに青い炎を灯しました。
「ちょっと灯りを落としておくれ」
 魔女に言われてチャックが部屋の明りを少し暗くすると、その青い炎が暗がりにゆらゆらと美しく揺れているのです。
「いいかい?よくごらんよ?」
 魔女はそう言うと、その青く燃えるブランデーをクリスマスプディングにそうっとかけていきました。
 それはまるで空で輝くオーロラが、するすると降りてきたような美しさで、誰もが息をのんで見とれるほどでした。
 そのブランデーが燃え尽きると、より一層甘くて濃厚な匂いが立ち込めます。
「さあ、これで完成だ!」

(その11につづく)
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