2014年12月29日

妖精チャックとクリスマスプディング その11

 魔女は鮮やかにクリスマスプディングを切り分け、皆のお皿に乗せてくれます。

「みんな、まだだよ!まだ食べちゃだめだからね」
「どうして?早く食べさせておくれよ。この甘い匂い!我慢できないよ」いつも笑っている笑い猫のニタニタも、この時ばかりは真剣な表情でそう言います。
「だって、この中にはお祝いの金貨が入っているんだよ。みんなで一斉に食べて、だれのプディングに金貨が入っているか試さなきゃ!」

 そういわれては待たないわけにはいきません。
 皆、そわそわしながら配られるのを待っています。

「さあ、これで全員だね?」
 魔女が満足げに見回します。
「まだだよ、おばあさん!」 チャックが慌ててそう言います。
「え?」魔女はぐるりと見回します。けれど皆――小さなミノムシのロダンじいさんの前にだってちゃんとプディングはあります。「まだ、誰かいるのかい?」
「ちがう!ちがう!おばあさん、自分の分だよ!」
 そう言われて、魔女はきょとんとして言いました「あたしの分だって?」
「そうだよ!自分の分を忘れてるよ、おばあさん!」
「でも、あたしは――」
 魔女はびっくりしてしましました。
 だって意地悪で偏屈で有名な洞窟の魔女と、誰が一緒にクリスマスプディングを食べたいと思うでしょう。そんなこと、考えたこともなかったのです。「みんな、あたしなんかと食べたくないだろう?」
「何言ってるんだよ」今度はチャックがきょとんとして言いました。「おばあさんが作ってきてくれたんだよ。誰もそんなこと、思うはずないじゃないか」
 皆も大きくうなずきます。
「さ、早くはやく!」マーチがせかします。
「……まったく、しょうがないねえ!」
 魔女はちょっと恥ずかしそうに、ぶつぶつ言いながら、皿をとりました。

 皆にクリスマスプディングがいきわたったのを見て、チャックがおっほんと咳払いをします。
「みんな!メリークリスマス!」
「メリークリスマス!」
 待ちきれないように、皆は一斉にプディングをほおばります。
「美味しいー!」
 それは甘くて、香ばしくて、甘酸っぱくて、濃厚で、口の中で何度も味が変わりながら溶けていくのです。
「こんなクリスマスプディング、初めて食べたよ!」 皆が口ぐちにそういいます。
 魔女はそれを聞いてとても嬉しそう。
「みんな!金貨は?」チャックが声をかけます。
「あ!」と声がしました。皆がその声の主を見ると、それは洞窟の魔女。魔女のプディングから、金貨が現れたのです。「金貨だ!初めてだよ、金貨が出たのは!」
 それを聞いて、今度は皆が魔女におめでとうを伝えます。そして誰もが、ありがとう、と言いました。
 美味しいプディングをありがとう!と。
 魔女がチャックに言いました。
「ありがとうよ、こんなに楽しいクリスマスは初めてだよ。こんなに美味しくクリスマスプディングを食べたのもね!」
 チャックは笑って答えます。「おばあさん、何にも知らないんだね」
「何にも?」
「そう、クリスマスプディングは、こうやって皆で食べるのが正式な食べ方なんだよ!」
 魔女も笑って答えます。「ああ―そうだ。そうかもしれないね」
 
 魔女は思いました。
 来年はもっと早くから準備して、もっと美味しいクリスマスプディング作ってやろう。
 そしてこんな風に、また皆に食べさせてやるんだ。
 
 魔女は金貨を大切にポケットにしまって、プディングを口に運びます。
 それは今まで自分が作った数々のクリスマスプディングのどれよりも美味しく思えました。

(おわり)
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