2014年12月29日

妖精チャックとクリスマスプディング その11

 魔女は鮮やかにクリスマスプディングを切り分け、皆のお皿に乗せてくれます。

「みんな、まだだよ!まだ食べちゃだめだからね」
「どうして?早く食べさせておくれよ。この甘い匂い!我慢できないよ」いつも笑っている笑い猫のニタニタも、この時ばかりは真剣な表情でそう言います。
「だって、この中にはお祝いの金貨が入っているんだよ。みんなで一斉に食べて、だれのプディングに金貨が入っているか試さなきゃ!」

 そういわれては待たないわけにはいきません。
 皆、そわそわしながら配られるのを待っています。

「さあ、これで全員だね?」
 魔女が満足げに見回します。
「まだだよ、おばあさん!」 チャックが慌ててそう言います。
「え?」魔女はぐるりと見回します。けれど皆――小さなミノムシのロダンじいさんの前にだってちゃんとプディングはあります。「まだ、誰かいるのかい?」
「ちがう!ちがう!おばあさん、自分の分だよ!」
 そう言われて、魔女はきょとんとして言いました「あたしの分だって?」
「そうだよ!自分の分を忘れてるよ、おばあさん!」
「でも、あたしは――」
 魔女はびっくりしてしましました。
 だって意地悪で偏屈で有名な洞窟の魔女と、誰が一緒にクリスマスプディングを食べたいと思うでしょう。そんなこと、考えたこともなかったのです。「みんな、あたしなんかと食べたくないだろう?」
「何言ってるんだよ」今度はチャックがきょとんとして言いました。「おばあさんが作ってきてくれたんだよ。誰もそんなこと、思うはずないじゃないか」
 皆も大きくうなずきます。
「さ、早くはやく!」マーチがせかします。
「……まったく、しょうがないねえ!」
 魔女はちょっと恥ずかしそうに、ぶつぶつ言いながら、皿をとりました。

 皆にクリスマスプディングがいきわたったのを見て、チャックがおっほんと咳払いをします。
「みんな!メリークリスマス!」
「メリークリスマス!」
 待ちきれないように、皆は一斉にプディングをほおばります。
「美味しいー!」
 それは甘くて、香ばしくて、甘酸っぱくて、濃厚で、口の中で何度も味が変わりながら溶けていくのです。
「こんなクリスマスプディング、初めて食べたよ!」 皆が口ぐちにそういいます。
 魔女はそれを聞いてとても嬉しそう。
「みんな!金貨は?」チャックが声をかけます。
「あ!」と声がしました。皆がその声の主を見ると、それは洞窟の魔女。魔女のプディングから、金貨が現れたのです。「金貨だ!初めてだよ、金貨が出たのは!」
 それを聞いて、今度は皆が魔女におめでとうを伝えます。そして誰もが、ありがとう、と言いました。
 美味しいプディングをありがとう!と。
 魔女がチャックに言いました。
「ありがとうよ、こんなに楽しいクリスマスは初めてだよ。こんなに美味しくクリスマスプディングを食べたのもね!」
 チャックは笑って答えます。「おばあさん、何にも知らないんだね」
「何にも?」
「そう、クリスマスプディングは、こうやって皆で食べるのが正式な食べ方なんだよ!」
 魔女も笑って答えます。「ああ―そうだ。そうかもしれないね」
 
 魔女は思いました。
 来年はもっと早くから準備して、もっと美味しいクリスマスプディング作ってやろう。
 そしてこんな風に、また皆に食べさせてやるんだ。
 
 魔女は金貨を大切にポケットにしまって、プディングを口に運びます。
 それは今まで自分が作った数々のクリスマスプディングのどれよりも美味しく思えました。

(おわり)

妖精チャックとクリスマスプディング その10

 チャックがそう声をかけたその時です。

 「待たせたね!」

 扉がバタンと開くと、ひゅうっと白いもやが流れ込んで、それはみるみる洞窟の魔女の姿になりました。その手にはが銀のお盆が乗っています。けれどお盆の上は赤いビロードのケープがかけられています。

「おばあさん!」チャックとマーチが魔女に駆け寄ります。
「待たせたね、あんたたち!」と魔女はもう一度そう言いました。「間に合ったかい?」
「うん、ちょうど今から始めようとしてたところだよ。」
「ねぇ、それがクリスマスプディングなの?」

 一同の視線が、魔女の掲げる銀盆に注がれます。

「ああ、そうさ。ぎりぎりまで熟成させてやりたくてね。このまま持ってきたんだ。」
「まあ!まあ!まあ!これは時だましのケープですね?」 魔女の赤いケープを見て、真珠の女王が言います。「なんて珍しい!」
「時だましのケープ?そりゃなんだい?」眠り鼠が目をこすりながら覗きこみます。
「時だましのケープで包んだものは、時間の流れから切り離されて、いつまでもそのままだったり、何倍も早く時間が流れたりするのよ。とても難しい魔法なのよ」
 真珠の女王の説明に、一同、へえ!と驚きの表情です。
「おばあさん、早くクリスマスプディングを!」
 チャックはもう、我慢できません。
 魔女はうむ、とうなずくと、指をパチンと鳴らしました。
 するとケープはしゅるしゅるとほどけて消えていき、おいしそうなクリスマスプディングが姿を現しました。甘い匂いが辺りに立ち込め、一斉に歓声が上がりました。
 深い茶色のプディングの表面には、星の粉砂糖がキラキラと輝いて、まるで樹氷が朝日を反射するようです。
「さあ、切り分けよう!」
 チャックがそう言いながらナイフを取り出すと、魔女がしかめっつらでこう言いました。
「違う違う!まだだよ!」
「ええ?」
「まったく、何にもわかっちゃいないんだね、あんたたちは!」魔女はぷんぷん怒りながら「クリスマスプディングを食べる時は、こうするのさ!」
 魔女は羽織っていたマントから、小さなソースパンを取り出すと、そこにブランデーをなみなみと注ぎ、爪で火花をはじくくと、そのブランデーに青い炎を灯しました。
「ちょっと灯りを落としておくれ」
 魔女に言われてチャックが部屋の明りを少し暗くすると、その青い炎が暗がりにゆらゆらと美しく揺れているのです。
「いいかい?よくごらんよ?」
 魔女はそう言うと、その青く燃えるブランデーをクリスマスプディングにそうっとかけていきました。
 それはまるで空で輝くオーロラが、するすると降りてきたような美しさで、誰もが息をのんで見とれるほどでした。
 そのブランデーが燃え尽きると、より一層甘くて濃厚な匂いが立ち込めます。
「さあ、これで完成だ!」

(その11につづく)

2014年12月27日

妖精チャックとクリスマスプディング その9

生まれたての太陽は、ファンタピアの地平の彼方へと沈んで、辺りは夜に包まれました。
草原の所々には、オレンジ色の淡い光が灯っています。
それはランタン草の放つ灯りです。
そのランタン草の一つに、チャックは住んでいるのです。

「どうだい、チャック?」
マーチが、ドアの窓から外を眺めているチャックに尋ねます。
「まだみたいだよ、マーチ」
もう、何度この会話を繰り返したことでしょう。チャックもマーチも、魔女がやってくるのを今か今かと待っています。けれどやってくるのはクリスマスパーティのお客ばかり。もうすぐパーティが始まる時間です。

コンコン。

ノックの音がしました。
大急ぎでチャックが扉を開けると、そこには海ガエルのクロックが立っていました。

「何だ、クロックさんか!」
「何だとはなんだい」
「ああ、ごめんごめん」とチャック。「みんなもう来てるよ」
クロックはお土産に持ってきた海イチゴをテーブルに置くと、先に来ていた友達の元へと歩いて行きます。
テーブルの上は、皆が持ち寄ったお菓子やフルーツが山積みです。けれど、肝心要のクリスマスプディングがまだ届いていないのです。
マーチがチャックに耳打ちします。
「チャック、皆揃ったけど、どうする?」
「うん……」
テーブルで山葡萄のジュースを飲む皆の声が聞こえました。

「魔女のクリスマスプディングだって?」法螺貝のロビンの声です。
「そう!洞窟の魔女に作って貰ったんだって。」とハーピのリップが答えます。「だって、その為に、あたし大急ぎで星の粉砂糖を集めたんだもの。星の粉砂糖は、1日の終わりに太陽が砕けて散った欠片の、そのまた小さな小さな星屑だから、ファンタピアの裏側を、行ったり来たり、大変だったの」
「それならボクらだってそうだよ。ねえ?」
そう言ったのはヒトデのステラ。それに答えるのはナマコのテクテクです。
「大変だったのよ、いきなり水干し柿が欲しいって言うんだもの。ご存知の通り、水干し柿は海水と淡水の丁度いいバランスで混ざる場所でしか出来ないから、夜の海のあちこち探したのよ」
真珠の王様や女王様、夜明け鳥のグーグやズーズー、その他、眠り鼠やヤマアラシのスパイク、笑い猫のニタニタも、とにかく材料探しに協力してくれた者は皆。如何にその材料集めが大変だったかを語ります。そしてそれを聞いた者は、そんな材料で作られたクリスマスプディングが、どれほど美味しいんだろうと期待を膨らませるのでした。

皆があまりに楽しみにしているのを見ると、さすがのチャックも少し不安になって来ました。もし間に合わなかったらどうしよう。そう不安になって来たのです。
チャックは考えます。 もしかしたら、やっぱり間に合わなかったのかもしれない。何カ月もかけて熟成させるクリスマスプディングを、今日作ってくれなんて、いくら相手が魔女だって無理難題すぎたかもしれない。
チャックは皆にそれを伝えようと決めました。
「皆、来てくれてありがとう!皆に言っておかないといけないことがあるんだ。」
チャックは皆に声をかけたのです。

(その10につづく)

2014年12月25日

妖精チャックとクリスマスプディング その8

 チャックとマーチが時計回りにかき混ぜると、生地はキラキラと色を変えて輝きます。
 それはきっと七色プラムのせいです。
「よし、いいだろう」
 魔女はそういうと、どろどろになったその生地を、使い込まれたプディングの型に流し込みます。
「おっと、コイツを忘れちゃいけないね!」
 魔女がパチン!と指を鳴らすと金貨が現れました。その金貨をプディングの中に埋めます。
「幸運の金貨だね!」とチャック。
「そうさ!」魔女は型にぎゅっと蓋をすると、今度は銀色のお湯が煮立ったその鍋の上に網をのせ、さらにその上にのせて蒸し上げていきます。

「本当は、蒸しあげてじっくりじっくり時間をかけて寝かせてやるんだ。でないと美味しくならないからね」
「でも、それじゃあクリスマスパーティーに間に合わないよ」
「わかってるさ。ここからが魔女の腕の見せどころだよ」

 魔女が口の中で何やら呪文を唱えると、暖炉の中からキラキラとした灰が舞い上がり、プディングが入った鍋を包み込みました。それはまるで金糸と銀糸で織り上げられた、大きな繭のようです。
「さあ、これでよし!」
 チャックは尋ねます。
「これからどうなるの?」
「あとはあたしに任せな。なあに、ちゃんとパーティに間に合うように届けてあげるよ」
 魔女に言われて、チャックとマーチは洞窟を後にしました。もちろん気になって気になって仕方ないのです。けれどパーティの用意も進めなくてはなりません。もうすぐ仲間たちもやってくるころです。
 二人はチャックの住む、ランタン草で、魔女が来るのを待つことにしたのです。

(その9につづく)

妖精チャックとクリスマスプディングその7

「あんたたち!」魔女は大きな声でそう言いました。「材料は?全部そろったのかい?」
 チャックとマーチはにっこり笑って答えました。
「もちろんさ!ほら!」
 二人が抱えた大きな袋の中には、虹のように色を変える七色プラム、ぷるぷると震えるほど瑞々しい水干し柿、ルビーのように赤いちじく、透き通るような青葡萄。金色リンゴもミルククルミも双子ナッツもキラキラ輝く星の粉砂糖も、その他、魔女が書きだした13の材料が、すべてそろっていました。
「たいしたもんだよ、あんたたち!」
 魔女は大喜びです。
「みんなに協力してもらったんだ」とチャックが胸を張ります。
「みんな?」
「そう。水干し柿はナマコのテクテクとヒトデのステラ、金色リンゴは夜明けどりのズーズーとグーグーに、星の粉砂糖はハーピーのリップに」
「ミルククルミと双子ナッツを取りに行くために、コドモクジラの背中に乗っけてもらったり、七色プラムは真珠王様と女王さまに分けてもらったんだよ」
「そうかいそうかい。ああ、どれも極上の品ばかりだね。これならとびきり美味しいクリスマスプディングが作れるよ!」

 さっそく魔女はクリスマスプディングを作り始めました。
 チャックとマーチは興味津々でそれを眺めます。

 魔女が百輪草の最後の花びらをちぎって鍋に入れると、お湯はお月様みたいな銀色に輝きだしました。
「さあ、始めるよ」魔女はその銀色のお湯でボウルを温めると、今度はボウルの中にそっとそおっと材料を入れていきます。「いいかい?クリスマスプディングには13の材料が必要なんだ。そのうちの一つでも欠けたら、それはもう、本物じゃないんだよ」
「へえ!知らなかった!」
「ボクもだよチャック」
 チャックとマーチは魔女のクリスマスプディング作りから目が離せません。それはまるで不思議で神聖な儀式のようなのです。
 チャックたちが集めた全ての材料をすべて入れると、そこにスエットやバター、ナツメグ、オレンジピール、そしてたっぷりのバターをいれてこう言いました。
「さあ、かき混ぜるよ。お前さんたちもやってみな」
「いいの?」
 チャックとマーチは大喜び。
 実はさっきからやってみたくて仕方なかったのです。
「いいとも。ただし、かき混ぜるのは必ず時計回りだよ。願い事を心の中で唱えながらかき混ぜるといいんだよ」
 教えられたとおりに、チャックとマーチはクリスマスプディングをかき混ぜます。
 じっくり、ゆっくり、丁寧にかき混ぜます。
 クリスマスプディングには、正当な作り方があるのです。

(その8につづく)

妖精チャックとクリスマスプディングその6

 チャックとマーチはダンテじいさんが教えてくれた材料の在処を目指します。
 魔女が書いたクリスマスプディングの材料は、二人が暮らすこのファンタジアのあちこちに散らばっているとても珍しい物ばかり。いくら魔女が作るプディングでも、急がなければ間に合いません。
 マーチが心配そうに言います。
「大丈夫かな、チャック。魔女は一つでも材料が欠けたら作れないって言ってたよ?本当に全部集まるかな?」
「大丈夫さ」チャックは自信満々に答えます。「いい考えがあるんだ」
「いい考え?それってどんな?」
「それはね…」
 チャックはにっこり笑ってマーチにその考えを伝えました。
 するとマーチもにっこり笑顔になりました。「うん、それならきっとうまくいくよ!」
「じゃあマーチは西の草原に。ボクは東の山に」
「うん!」
 二人は材料を集めに駆け出しました。


 洞窟の魔女はそわそわ、そわそわしながらチャックとマーチを待っています。
 調理場の真ん中には大きな鍋が浮かび、中ではぐらぐらとお湯が沸いています。
 魔女は調理場をそわそわウロウロ。
 ウロウロ、ウロウロ。
 そわそわ、そわそわ。
 三歩歩くたびに、壁を流れる水時計をぎょろりと睨みます。
「まったく!何してるんだい、あのコたちは!」
 チャックとマーチが洞窟を飛び出して、もう何時間たったでしょう。魔女は一輪挿しに刺さっていた百輪草を手に取ると、その花びらを一枚ずつちぎり始めました。
「間に合う、間に合わない、間に合う、間に合わない、間に合う、間に合わない……」
 魔女がちぎる色とりどりの花びらは、ひらひらと鍋の中に落ちていきます。
 花びらはお湯に落ちるとすっと溶け、その度にお湯は赤、青、緑、黄と色を変えていきます。
「間に合う、間に合わない、間に合う、間に合わない、間に合う、間に合わない……」
 とうとう最後の花びらになったその時です。
「間に合った!」
 チャックとマーチが魔女の調理場に駆け込んできたのです。
 
(その7へつづく)

妖精チャックとクリスマスプディング その5

 クリスマスプディングのを作る為の材料を探す。
 それは何だか、クリスマスにピッタリのイベントのように思えて、チャックはワクワクして来ました。

「どんな材料を集めればいいの?」

 チャックは魔女に尋ねます。

「ちょっとお待ちよ、今、書き出してあげるから…」

 魔女は羽根ペンにたっぷりインクをつけると、スラスラと羊皮紙に材料を書き出してくれました。

「本当に集められるのかい?」

 今度は魔女が、ちょっぴり心配そうに尋ねます。

「まかしといて。きっと材料を集 めてみせるさ」
「なら、あたしはプディングを作る準備をすすめておくよ」

 チャックとマーチは魔女の洞窟を飛び出します。北風の寒さも気になりません。二人はそれぐらいワクワクしていたのです。

「ごらんよ、チャック!ダンテじいさんだ!」

 見るとアルベーロの森の出口、そこに立つひときわ大きな木の枝に、ミノムシのダンテじいさんがぶら下がっていました。

「ちょうどいい!ダンテ爺さんに聞いてみよう!」
「うん」

 ミノムシのダンテじいさんはとても物知り。森の事ならなんでも知っているのです。

「ダンテじいさん、聞きたいことがあるんだ」チャックが声をか けます。
「おや?お前はランタン草の妖精じゃないか。こんなところでどうしたんだ?」ダンテじいさんは風に揺られてゆらゆらゆれながら答えます。
「何でも知ってるダンテじいさんに、聞きたいことがあるんだ」
「ほうほう。わしに聞きたいこと?」
「ボクたち、クリスマスプディングを作る為の材料を探しているんだ。どこに行けば見つかるか、教えてくれないかな?」

 そう言いながら、チャックとマーチは羊皮紙に書かれた材料を読み上げます。

「七色プラム、水干し柿、赤いちじく、青葡萄、金色リンゴ、ミルククルミ、双子ナッツ、星の粉砂糖、それから……」

 それを聞いたダンテじいさんは小さな身体の小 さな目玉をまんまるにして言いました。

「おいおい、お前さんたち、そいつを今から全部集めるつもりかい?ああ、そうか。来年の準備というわけだな?気の早いことだ」
「違うよ、ダンテじいさん!」チャックが口を尖らせます。「今年のクリスマスパーティに使うんだよ!」

 そこでダンテじいさんは益々おどろいて言いました。

「そいつは呆れた!知らないのか?クリスマスプディングを作るのは、とても時間がかかるんだ。これからじゃとても間に合いやしないぞ」
「大丈夫さ!洞窟の魔女が作ってくれるんだ。」
「だからお願いだよ、どこに行けば材料が見つかるか教えてほしいんだ。」
「魔女のクリスマスプディ ング!なるほどなるほど、魔女が作るなら間に合うかもしれん。いいだろう。教えてやろう。でも、1つ条件がある」
「条件?条件って?」
「わしにもそのプディングを食べさせてくれるなら教えてやろう」

 チャックとマーチは顔を見合わせました。でも、勿論答えは決まっています。

「いいよ!」

 チャックがそう答えると、ダンテじいさんはニコニコ身体を揺らしながら、材料のありかを教えてくれました。

(その6につづく)

2014年12月24日

妖精チャックとクリスマスプディング その4

 甘いココアを飲み干すと、チャックがもう一度言いました。
「おばあさん、ボクたち、クリスマスプディングが欲しいんです」
「大急ぎで作ってもらえませんか?」とマーチも言いました。
「それがねえ」 魔女は少し申し訳なさそうな顔をして言いました。
「今年の分はもう全部作ってしまって、材料が足りないんだよ」
「そんな!」
 チャックとマーチは二人して大きな声を出してしまいました。
「せっかくここまで来たのに!」
「あたしだって、作ってやれるもんなら作ってやりたいさ。あたしの自慢のプディングなんだもの!けど、材料がなくっちゃどうにもならない」
「なんとかなりませんか?少しくらい足りなくても我慢するよ。な、マーチ」
「馬鹿をお言いでないよ!」魔女は大きな声でそう言いました。
「クリスマスプディングにはちゃんと決められた材料と手順ってのがあるんだ。そんな適当に作って美味しいクリスマスプディングが出来るわけないだろう!」
 魔女のあまりの剣幕に、チャックとマーチは震え上がりました。
「ごめんなさい」
 チャックは謝りました。「つい、どうしても食べたくて」
「わかりゃいいのさ、わかりゃ」
「ねぇ、おばあさん、その足りない材料っていうのはいったいどんな物?それをボクたちで集めてきたら、クリスマスプディングを作ってくれる?」
 おずおずとマーチがそう言いました。
「あんたたちが?そりゃもちろん、材料さえあれば喜んで作ってあげるよ。極上のヤツをね!」
 チャックとマーチは顔を見合わせて頷きました。
「よし、やろうマーチ」
「うん!」
 クリスマスまで時間がありません。さあ、材料探しです。

(その5へつづく)

妖精チャックとクリスマスプディング その3

 ぎょろりと睨む魔女の眼は、ランランと赤く輝き、そのあまりの恐ろしさに、マーチはチャックの後ろに隠れてしまいました。
 それでもチャックは勇気を振り絞って話しかけます。だって、どうしてもクリスマスプディングが必要なんです。
「あの、ボクたち、お願いがあって来たんです」
「お願いだって?何だっていうんだい!」
 魔女は何かに腹を立てているかのように話します。
「実は、あなたが作るクリスマスプディングがとても美味しいって聞いて。な、マーチ?」
「あ、ああ、うん。そうなんです」
「だから、そのクリスマスプディングを分けてもらえないかと思ってきたんです」
 おっかなびっくり二人がそういうと、魔女はその高い鷲鼻をひくひくっと動かして、
「クリスマスプディング!そうかい!あたしのプディングを食べたくて、わざわざ?」
「う、うん。」
「そうかいそうかい!」
 魔女はさっきまでの仏頂面が嘘のようににっこりと笑うと、
「さあさあ、そんなところじゃなくて奥へお入り。ほら、そこに座りな。今、温かい物を淹れてあげようね」
 そう言うと、長い爪の指をパチン!と鳴らしました。
 チャックとマーチのもとへ、するするとカップが飛んで来ました。
 小さな暖炉に火が点くと使い込まれた小さな鍋がその上に浮かびます。
 魔女が小瓶から茶色い粉を淹れ、ミルクを注ぎ、またパチンと指を鳴らすと、小さな匙が飛んできて、くるくると鍋の中をかき回します。
「ココアはようく練った方が美味しいからね」
 魔女の言うとおり、それは今までに飲んだことがないほど甘くてあったかくて美味しいココアでした。
 チャックは思いました。

―こんなに美味しいココアを淹れることが出来るんだ。きっとクリスマスプディングも美味しいに違いない!

(その4につづく)
 

妖精チャックとクリスマスプディング その2

 外は冷たい風が吹いていました。
 風はひゅぅぅるるひゅぅぅるると笛を鳴らしています。そんな寒い道すがら、それでも二人はわくわくしながら話ます。
「ねえマーチ、その魔女の作るクリスマスプディングは、いったいどんな風だろう?」
「さあ、とにかくとても美味しかったってことだけど」
「ナツメグ、イチヂク、レーズン、チェリー…クルミやナッツもたくさん入れてほしいな」
 チャックの言葉に、マーチのお腹がぐぅ、と応えました。
「ボクはたっぷりのラムバターも添えてほしいな」
 マーチの言葉に、今度はチャックのお腹がぐぅと鳴ります。

 魔女が住むという洞窟は、ねじくれの木が並ぶアルベーロの森の奥にあります。
 いつもは不気味に思える森も、今日はそれほど怖くありません。
 だって、森の奥から漂っているのは甘くて芳醇なクリスマスプディングの匂いなんですもの。

 チャックとマーチは我慢できずに、森の奥へ奥へと駆けて行きます。
 甘い匂いをたどっていくと、とうとう洞窟の入り口に辿りつきました。そこが魔女の住む洞窟です。

「ごめんくださーい」

 入口から中を覗き込みながら、チャックが声をかけます。けれど返事は聞こえません。
 二人は顔を見合わせ、洞窟の中へと足を踏み入れました。
 洞窟の中は右へ左へ上へ下へと大きな蛇のお腹の中みたいにうねうねと続いています。
 チャックとマーチが甘い匂いを頼りに進んでいくと、やがて二人は魔女の調理場に辿りつきました。
 そっと覗き込むと、蝋燭の灯りの中で、魔女は大きな窯を覗き込んでいます。
 けれどその周りにはクリスマスプディングらしきものはありません。
「ねえマーチ、あの窯でプディングを焼いているのかな?」
 小さくチャックがそう言うと、
「誰だい!お前たち!」
 二人に気づいた魔女が振り返りました。魔女はぎょろりとした大きな目でチャックとマーチをぎょろりと睨みつけてこう言いました。
「ここが誰の家だかわかって来たんだろうね!」

(その3につづく)

2014年12月23日

妖精チャックとクリスマスプディング その1

 妖精チャックは葉っぱの妖精。
 ランタン草の葉っぱに住んでいる妖精です。
 妖精チャックは葉っぱの妖精。
 いつも面白いことを探しているのです。


 それはクリスマスが近づいたある日のこと。
 チャックは仲良しのマーチと一緒にクリスマスパーティの準備を始めました。
 楽しくて面白いことが大好きなチャックは、仲間たちと集まるパーティが楽しみで仕方ありません。素敵なパーティにするために、あれこれ考えます。
「ほら、その飾りはあっちの壁に。この飾りはその窓だよ」チャックは大張り切りで指示を出します。「違う、違う、そのキラキラしたのはツリーの飾り、そのふわふわしたのはテーブルの上だよ」
 
 ようやく準備が整ったところで、チャックは大きな声をだしました。「しまった!」
 驚いたマーチが尋ねます。「どうしたんだいチャック?」
「うっかりしてたよ、マーチ!大切なものを忘れてた」
「大切なもの?」
「そう!」
「大切なものって?ツリーもキャンドルもちゃんと準備できたのに?」
「そんなものより大切なものだよ!」
 マーチは考えます。「クリスマスパーティで、ツリーより大切なもの?」
「そうとも!分らないかい、マーチ」
「うーん……降参だよ、チャック。一体何を忘れてるって言うんだい?」
「クリスマスプディングだよ!」
「クリスマスプディング!」

 クリスマスプディングというのは、クリスマスの日に食べる特別なお菓子のことです。

「クリスマスプディングの無いクリスマスなんて、クリスマスじゃないよ!」
「どうする、チャック。今から作るつもり?そんなの間に合いっこないよ。第一、ボク、クリスマスプディングの作り方なんてわからないよ」
「ボクも知らないけど、絶対に必要なんだよ、マーチ。だってクリスマスプディングがなきゃ、金貨あても出来ないし…」
 チャックは、パーティで切り分けたプディングに祝福の金貨が入っているかを探すのが大好きなのです。
 二人は途方に暮れてしまいました。
 だって美味しいクリスマスプディングを作るのは、とても時間がかかるのです。
「そうだ!」何かを思いついたようにマーチが飛び跳ねました。「洞窟の魔女のところに、クリスマスプディングを分けてもらいに行こうよ」
「洞窟の魔女だって?」
 チャックは驚きました。なぜなら、洞窟に住んでいる魔女は、とても偏屈で意地悪だと噂だからです。
「ところがね、チャック」マーチが説明します。「魔女はクリスマスプディングを作るのが大の得意で、この得意料理をみんなに食べさせたくて仕方ないんだって。だからこの時ばかりは意地悪な魔女もたいそう愛想がいいんだってさ」
「本当かい?」
「うん、ヤマアラシのチクチクも、黄色熊のペロットも、去年おすそ分けをもらったんだって。ほっぺが落ちるほど美味しかったらしいよ」
「へえ!それが本当なら、ぜひ食べてみたいね」
 そうしてチャックとマーチは、洞窟の魔女のもとへと向かうことにしたのです。

(その2へ続く)